即興小説トレーニング「監禁期間」

即興小説トレーニング「監禁期間」

お題:臆病な監禁 必須要素:イヤホン 制限時間:15分(5分オーバー)

 

スパイだった俺は今敵の手にかかり監禁されている。
やつらが俺をどうしようとしてるか分からないが、すごい臆病者なのか、一度も姿を見せたことはない。
窓一つないし、周りに人気もなく、この四角くて白い部屋の外部がどうなっているかは分からない。
食事はトレイ一枚がやっと通る、郵便受けのような細いスリットからさしこまれる。そのスリットの向こうにも人気は無く、どうやら機械が食事を届けているらしい。
俺の耳にはイヤホンが差し込まれており、これはどうあがいても絶対に抜けることがない。そのイヤホンのAIぽい声が、たびたび話しかけてくる。
逃げようとしても無駄ですよ、とか、あなたはここで生きた心地のしないまま生かされ、気が狂うまで出られないのです、だとか、士気をくじく言葉を投げかけてくる。
はじめは、スパイになるまでに相当な訓練を受けた俺だから、そんな言葉には屈せず、無視していた。しかし他に全く他の人間がいない空間で、何日もそいつの声だけを聞く生活に耐えられず、時にはつい反応して怒鳴ったりしてしまうのだった。
次第に、AIが軟化してきた。疲れていることでしょう、とか、スパイになったことを後悔していますか、とか、家族はどこにいるんですか、とか、俺の俺の内面に踏み込もうとして来る。そして心なしか、声が俺に似てきたのだ。AIが俺の声紋を学習しているのだろう。精神的にかなりまいっていた俺は、軟化してきた俺によく似た声のAIと会話を始めるようになった。
そして、身の上話から何から話してしまった俺たちは、会話のネタもなくなり、しまいにはどんどん単純化していった。

「つらい」「つらいよな」「でたい」「でたいだろう」「いつまでここにいるんだろう」「いつまでここにいるんだろうな」……こんなものばかりで、俺に似た声が俺のオウム返しをするだけ、それでも精神をぎりぎり保つためには必要な営みだった。
やつらの意図がなんだかわからないが、気が狂わないでいるためには、この声にすがるしかない。
そんな中、ある日起きたらイヤホンがこわれていた。数週間?数か月?ぶりに耳からイヤホンがはずれ、しかし俺はもうあの声が聴けないことに耐えられず、叫び、あばれ、のたうちまわる。
イヤホンのコードを首に回し、意識を断とうとする。これが奴らの狙いだったのか?
 

 

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