私に無許可で死なないで

こんにちはー! 「渋澤怜の面白メトロノーム」へようこそ!

本日のトリップアドバイザーを務める、渋澤怜でーす!

みんな、ワープゾーンって聞いたことあるかな? ……多分あんまり聞いたことがないよね。

ワープゾーンは、宇宙の果てにあるといわれる、ブラックホールとホワイトホールの合体したもので、そこに飛び込めば別世界にワープできる、といわれているんだ。

 

みんな、ブラックホールは知ってるかな? 聞いたことあるよね。

地球が一円玉の大きさに圧縮されてしまうほどの強い強い重力をもった空間で、そこに近づいたものは全てブラックホールの中心に吸い寄せられてしまうんだ。でもね、ブラックホールに吸い寄せられたものはどうなると思う? そのままぺしゃんこになっておしまい? ううん、ブラックホールの中心は実は指輪みたいなわっかになっていて、そこをうまくくぐり抜けられたら、世界は反転してホワイトホールという、すべてのものをはじき出す怖ろしい斥力をもった空間につながって、なんと、別な宇宙に飛ばされてしまうんだ。

これが、ワープゾーン。

 

今日は皆さんを、宇宙の最果てのワープゾーンまで案内するよ!

こちらは頼れるエンジニア兼イケてるディスクジョッキーの×××××。

それじゃ×××××、ミュージック、スタート!

 

 

ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ・・・・・・

 

 

むかしむかし、あるところに、死にたがりの男の子がいました。

男の子は自分の死因を考えるのが大好きで、「熱狂的なファンに刺されて死ぬっていうのはどうかな?」「『心不全のため急逝』って一番カッコよくない? 本当の死因を隠してるっぽいでしょ。本当は自殺かもしれないし事故死かもしれないし、他殺かもしれない」「おじさんになるまで生きてるのはやだな、デヴィッド・ボウイみたいな格好良いおじさんなら別だけど」なんてことを言ってばかりの、自分大好きで鼻もちならない、カッコつけ野郎でした。

 

男の子は先のことを考えるのがあまり得意ではありませんでした。これから暑くなるかも寒くなるかもよく分かっておらず、総じていつも薄着でした。「まあいいや、どうせ再来年当たり死ぬっしょ」と言って服を買わない、お金も貯めない、そしてなけなしの小銭はひととき胃を温めるだけの酒の小瓶に費やす、そうやってまた、寒い寒い冬を迎えました。

 

冬を正攻法で乗り切るのが無理ゲーと思った男の子は、実は知っていました、どうしてこんなに懐が寒いのか。お金が無いこと、隣に女の子

がいないこと(≒いすぎること)、それらは全て真の理由ではありませんでした。

栄養不足と寝不足で男の子の体温は常に低く、いつもぼんやりとしている意識の中で男の子は、自分にはこの星の重力は合っていない、と思い始めました。僕は本当は別の星で生きるために生まれてきたんだ、僕の身体は地球に合ってないんだ、僕の本当のお母さんは別の星からやって来た宇宙人で、でも僕を生んだ後すぐにいなくなってしまって、だからお父さんが新しく見つけた地球人のお母さんが僕を育てたけど、でも、だから、あのニセモノのお母さんは僕のことを愛していないんだ、この星のすべてはニセモノなんだ。

 

時々、誰もいないのに誰かの声が聞こえる気がする。(えー全然そんなことないですよー)

時々、自分は誰かに操られていると感じる。(本当、自分なんてそんな、全然です)

時々、みんなが自分の悪口を言ったり、嫌がらせをすると感じる。(いえいえまさか、とんでもないですー)

時々、誰かから監視されたり、盗聴されたり、ねらわれていると感じることがある。(逆にそこまでってことは無いですよ全然―)

時々、消えてなくなりたい気分になる。(あー、それはちょっとあるかもー)

 

 

そう、あの、自分大好きな鼻もちならないカッコつけ野郎の男の子は、本当は、自分のことが大嫌いなのでした。

 

 

ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ・・・・・・

 

 

ワープゾーンへの行き方は、いくつかあるんですよ。外側から行く場合はスペースシャトルが必要ですので一般の方には不向きです。内側から行く場合は、精神の鍛練だけで済みますので、ご家庭でも経済的に実践できますね。

 

今、息をしていますか? ……していますね。していると思っていなくてもうまくできているのが息、していると思うとうまくできなくなるのが息。自分の息を完全に忘れる/完全にコントロールすることが出来ればそれはワープゾーン/瞑想と呼ばれます。

 

あなたがほかの場所に行くことと、あなたがほかの人間になることと、どちらが速いと思いますか? 前者だと思う人は頑張ってスペースシャトルを買ってください。人間は、毎日息をすることで、少しずつ中と外のものを出し入れして、少しずつ違う人間になっています。(ペルシアンズの中に、二週間前のペルシアンズの成分は全く残っていない。ペルシアンズと二週間前のペルシアンズをつなぐのは情報だけだ。)

 

だから、ね、仮に、2週間分の息をいっぺんにしてしまえば、あなたはこの宇宙空間のここ以外の場所に拡散して、ここにいるのはあなた以外の存在になる。すなわち、あなたはワープできるんです、他の世界へ。それが、ワープゾーンです。

(渋澤怜、突如×××××の首を絞める)

(×××××、2週間分激しく咳き込む)

 

ねえ、お母さんと同じ星に行きたいんでしょ? ねえ。

 

(どこに行っても、肉体から逃れることは出来ない)

 

自分が大好きで、大嫌いで、自分がもっている引力(自分は自分が思うより愛されているということ)、斥力(自分は自分が思うより他人に愛されているというわけないと思って他人の愛を跳ねのける力)で引き千切られそうな心の中にワープゾーンを作って、一回死んで、生まれ直して。こうやって、自分が気に入る新しい名前を付けて満足ですか? 自分だけが気に入る、新しい名前を。でも、名前って、呼ぶのは他人なんですよ?

 

 

究極のエゴは死ぬこと。

 

才能無いなら死にたい、と、21世紀生まれのアイドルは言った。

 

(事務所に無断で髪切るな)

 

だから冷凍睡眠でね、身体を氷漬けしちゃうの。それで、「私の見た目が好きなだけで本当の私のことなんて好きじゃないでしょ」って一生思わずに済むようにね、

 

(事務所に無断でケガするな)

 

こうして、地球では「死んだ」ということにしたアイドルは50年と15分の冷凍睡眠を経て別の星に生まれ直したのち、その星のイヴに相当する役目を担当し、念願のセンターを獲得したのでした。

 

(事務所に無断で死ぬな)

 

死にたがりの男の子の将来の夢は、自分の葬式に自分が出席することです。そうして、何人が泣くか、知りたいのです。何人の女の子が「本当はあなたのことがちょっと好きだった」と言って泣いてくれるか、知りたいのです。

 

究極のエロは死ぬこと。

 

(私に無断で死ぬな)

 

 

wikiでは生きてる。

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