小説の基礎練16:子供の階段(お題:階段)

 

小説の基礎練です。ルールはリンク参照。

 

 

わたしももう六年生だ、そしてもうすぐ卒業なんだな、と、毎朝この階段を上るたびに思う。

 

この小学校は上の学年ほど上の階に教室が置かれる。

一年生の時は一階の教室のべランダから直で校庭に出て、昼休みの時間いっぱい外で遊んだものだ、と、昇降口付近を駆け回るちびっこ達を見ながら思う。

高学年の今は一階まで下りて外に出るのも億劫だし、女子同士でおしゃべりしながら休み時間を過ごすことが多い。

 

小学校って不思議なところだなあと思う。一年生と六年生、心も体も育ち具合が全然違う人間がひとつの建物に入っている。同じ遊具で遊べと言うのもおかしいくらい、違う生き物なのに。

 

上級生がいる上の階はちょっと怖いし、でもちょっとあこがれていた。今は自分がそこにいるのだと思う。

 

一階と二階の間の踊り場には鏡がある。いつもの癖で、別に見るともなく自分を見てしまう。

でも今日はおかしなことに気付いた。

「あれ」

私は今日は赤いチェックのスカートを履いていたはずなのに、鏡に映る私は体育着、しかも上履きの色は赤。今よりずっと背が小さくて、髪も短い。これは……小三の時の私じゃないだろうか。

鏡の中から「あずみちゃん」と私の名を呼ばれたので、思わず手を伸ばす。そのまま鏡の向こうの誰かに手をひっぱられて、鏡の中に入ってしまった。そこにいるのはえりかちゃんだった。場所は校庭。聞こえるみんなの歓声。運動会だ。

 

なんでこんなところにいきなりワープしてしまったんだろう。私は何かを握り締めているようだ、と気付いて手を開くと、100m走で一等賞になった子に渡される小さな引換券が出て来た。それを見た瞬間、私の頭は記憶のぶりかえしでぐわんぐわん揺れた。

 

えりかちゃんは100m走で一等賞になったのに、この引換券をなくしてしまった。というか、えりかちゃんのポケットから落ちたのを二等賞の私がこっそり拾って、ねこばばしてしまったのだ。その引換券を町内会のテントに持っていくとお菓子が貰えるのだけど、食い意地の張っていないえりかちゃんは無くしたことを全然気にしていない様子だったので、わたしはありがたく頂戴してしまったのだ。でも翌日、えりかちゃんはお母さんからこっぴどく怒られたのだと聞いた。無くしたならちゃんと町内会の人に説明してもう一回貰いなさい、あんたは押しが弱すぎる。何より一年生の弟が、そのお菓子に含まれているカード入りポテチを貰えるのを楽しみにしていて、とてもがっかりしていたらしい。

 

翌日そんなことを聞いてからますます打ち明けられなくて、今まで来てしまった。

でも、今なら言える。

「えりかちゃん、これ、落としたよ」

「あ、ありがとう」

えりかちゃんの手にそれを渡したと思ったら、その腕を引っ張られて再び鏡の外に戻されていた。

 

鏡にはちゃんと、赤チェックのスカートを履いた今日の私が映っている。

「なんだったんだろう」

私は首をかしげながら再び階段をのぼりはじめた。

二階と三階の間の踊り場にも鏡はある。なんとなくまた覗きこんでしまったら、今度はスクール水着を着た私が現れた。胸には大きく「4-2 芹沢」のゼッケンが縫い付けられている。

またしても鏡の中から私の名前を呼ぶ声がする。私はずんずんと鏡の中へ進み入った。

 

そこは学校のプールだった。目の前には見学者が座る用の小さなテントがある。そこにいたのはかおりちゃんだった。

私はまたもや記憶の中にあった苦しい気持ちに襲われた。

わたしはこの日、週に三回あるプールの時間を全部休んだかおりちゃんに、「ずる休みなの? 本当にそんなにお腹痛いなら学校休めばいーのに、おかしくない?」と心無いことを言ってしまったんだ。わたしがブールが大嫌いだったから、休みっぱなしのかおりちゃんを僻んで、ずるしてる、と思ってしまった。でも今なら分かる。かおりちゃんは生理だったんだ。それに気付いたのは、この時から一年も経った最近のことで、私にも生理が来たからだ。あのときは本当に申し訳無かった。

 

私は今度は何も言わないで、かおりちゃんの傍を通り過ぎることができた。むしろ「ごめん」って言ってしまいそうなくらい、申し訳無い気持ちでいっぱいだった。

 

胸のつかえが下りてほっとした間もなく、また誰かに引っ張り出されるように鏡の外に戻って来た。やはり、鏡は何事も無かったように赤チェックのスカートの今の私を映している。

なんなんだろう、本当に。早くしないと始業のチャイムがなる。私は自分の教室がある四階を目指した。

 

三階と四階の間にも、鏡はある。やっぱり見るわけにはいかなかった。そして今度はそこには、白いシャツにリボンにブレザー、よそいきの格好をした私が映っていた。あれは、五年生から入った器楽クラブの発表会の格好だ。

 

鏡に入ると長谷川先生が指揮台に立っているのが見え、私はピアノの前に座っていた。リハーサル中みたいだ。

長谷川先生はいつも私にピアノを弾かせた。ピアノは花形だし、私は嬉しかった。けど、私よりピアノの上手い子がいたのだ。まどかちゃんだ。

まどかちゃんは何人もいる鍵盤ハーモニカのリーダーをやっていた。

なぜか長谷川先生は、まどかちゃんばかりを叱った。私がリズムを崩しても鍵盤ハーモニカのせいにしてまどかちゃんを注意した。私は一度も何も言われず、もどかしい気持ちを抱えながらも言いだせなかった。何度も同じ個所を間違えているのは私なのに。ああ、もう少しするとまどかちゃんは泣いてしまうんだ。その前に私は、今度は、言わなくては。

 

「ねえまどかちゃん、私、ここの譜面が何度見てもよく分からないの。まどかちゃんお手本弾いてみてくれないかなあ」

 

まどかちゃんの目からこぼれそうになっていた涙をひっこめることができた。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている長谷川先生を見て、すかっとした。

 

また元の世界に引き戻された。私は四階まで駆け上り、チャイムぎりぎりに教室に滑り込んだ。

そして息を弾ませながら、自分の席に座ると、えりかちゃんもかおりちゃんもまどかちゃんも、今、同じクラスにいることに気がついた。

 

あの階段の不思議な出来事で、私は分かった。過ぎてしまった昔のことを、今更無しには出来ない。自分のせいで、えりかちゃんとかおりちゃんとまどかちゃんとは距離を置いてしまい、同じクラスなのになんとなく話しにくくなってしまった。

でも、今ならまだ同じ教室にいる。これが中学になって離れ離れになったら、多分一生謝れないところだった。向こうが忘れてしまっていてもいい、「今更何」とむかつかれてしまってもいい、休み時間になったら三人に話してみよう。

 

私は気付いていた。多分あの階段は、私が大人になるまで続いている。ううん、一生続いている。だから一生ちくちくと思いだしては、嫌な気持ちになるんだろう。だったら、まだ、今謝った方がいい。大人になったら、一生会えない人なんてどんどん増えていくんだろう。六年間同じところにずっといるのは、ラッキーなことだ。

 

ガラッと戸が開いて、先生が入って来た。担任は器楽クラブの顧問と同じ、音楽の長谷川先生だ。

いつも通りの朝の会が始まり、先生が今日の掃除当番を読み上げた。

「今日は五班ね。四谷君、飯田君、橋本さん、春日さん、よろしくね」

私はまた、胃が痛くなるような気持ちに襲われた。

「先生、私も五班ですけど」

私は勇気を出してそう言った。長谷川先生はこともなげにこう答えた。

「ああ、芹沢さんは昨日ゴミ捨てを手伝ってくれたでしょ? だからいいの」

先生は私にだけ見えるようにウインクをした。嘘だ。ゴミ捨てなんか手伝ってない。

「そういうひいきやめてください」

私は立ち上がって、勇気を出して大きな声で言った。

先生は鏡の中と同じ、虚を突かれたような顔をしていた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

久々にやりました、「基礎練」。

制限時間2時間、テーマ縛りで小説を書くというものです。

久しぶり過ぎて30分くらい過ぎた……あと二日に分けてやってしまった……

まあいいんだよ、いくらルール破っても、続けないよりは……!!

 

一番いいのは人とやることで、

一同に会してテストみたいに「はい、始め!!」ってやることなんだけどね。

まあやりたくなったら今度誰か一緒にやりましょう。

禿げるほど疲れるぜ……

 

 

さて、「階段」と言えば「大人の階段」だよね!(!)

でもなんか私この言葉嫌いでさ

というのも子供から大人に一直線で成長するわけじゃないし、

子供の方が優れた部分もいっぱい持ってるはずだと思うからなんだよね

つまり人間の成長に段階発展説をとるのに反対の立場なんだよね

 

というわけでひねくれて「子供の階段」というタイトルにしてみました

これは「大人になれば、「後悔するような苦い出来事」を抹殺出来るわけではなく、

むしろ全然がんがん生産し続けてしまうんだけど、子供の時の方がまだ謝りやすいよね」

みたいな意味を込めてみた感じだ

書いたとおり、一生階段は続くし、でもそれは進歩しているんではなく、黒歴史を積み重ねているだけなんだよ……!!

 

 

さてこの「基礎練」は、2時間しか無いので、ラストまで決める間もなく序盤を書き始めないと、間に合いません

本当はトラウマイベントに男子女子両方出したかった、とか、長谷川先生のひいきをもっと巧妙なものにしたかった、……とか、あるんだけど、まあ時間が無いので思いついたものでやるしかなかったのさ……

 

書くにあたって自分の小学校での記憶を思い出してたら「あああああ」ってなりました。

習字の時間に前の席の天野君の椅子にかかってた白いパーカーに、墨つけちゃって、黙ってて、ごめんね……あと天野君は私が似顔絵を描いたら泣いてしまった……ごめんね……

 

 

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