小説の基礎練14:溺れる人魚(お題:溺れる魚)

 

小説の基礎練です。詳細はリンク参照。



 

 人魚姫はやりきれない思いでした。王子を助けたのが自分であることを伝えるために人間の身体を手に入れたのに、声を失ったためにそれが出来ずにいるのでした。しかも浜に打ち上げられた王子を見つけた別の娘が、王子の命の恩人としてすっかりまつりあげられ、婚約の話も持ち上がってきているのでした。

 

 声を失っても王子のそばへ行きたい、声が無くても想いは伝えられる、そう思っていた自分のせいだから、良いのです。ただ、別れ別れになってしまった姉たちを思うと胸が締め付けられるのでした。王子と一緒になることが自分の一番の幸せだと思って、苦渋の決断をして陸へ送り出してくれたのに。

 

 昨日、姉たちが魔女からの伝言を伝えに来たのでした。
「王子の胸を短剣で突き刺せば、あなたは人魚に戻れる」。
そう言った姉たちが、王子を犠牲にしてでも海に戻ってきてほしいと願っていることは痛いほど伝わってきました。久しぶりに姉たちの姿を見て、海に帰りたい、王子のことなんか忘れて、また家族で暮らしたい、そうも思いました。

 

 なんでこんなところに来てしまったのだろう、とも思いました。

 

 自分をかくまっているために王子の立場はどんどん悪くなっていました。いくら王子とはいえ、海辺で一目ぼれした素姓の分からないおしの娘をいつまでもお城にかくまっておくことはできません。あの娘と結婚するのならなおさらです。

 

 自分は王子を助けた。だからと言って、それだけで好きになってもらえるとも、いつまでも一緒にいられるとも思っていません。

 

 でももう少しだけそばにいたい。しかしそれこそが、王子の立場を悪くしている。

 

 尾ひれと声を失った自分は、できそこないの人間、泳げない魚。何もできない存在なのに、王子の傍にいたいだけ。

 

 ポケットに入れた短剣を見つめたり、握り締めたりしながら、人魚姫はずっと考えていました。

 

 

 

 その日も船上パーティがあり、王子も、人魚姫も船に乗り込みました。

 ああ、十七歳の誕生日、私が王子を助けた日と同じ。

 そう人魚姫が思いながら海を見つめていると、海の色までが同じなので人魚姫はハッとしました。

 人魚姫の予感は的中し、突然強い風が吹きすさび、海は荒れ、船は大きく揺れだしました。

人魚姫が王子のもとに駆け寄るのと、船がひっくり返るのは同時でした。二人は海へ放りだされました。


 人間の身体となった今は海は恐怖でしかありませんでした。尾ひれの無い身体は油断するとどんどん沈みます。

 今この人を短剣で刺せば、私は救われる。そう思ったけれど、ポケットの中の短剣を抜くことはどうしても出来ませんでした。

溺れる王子の身体を抱えながら岸を目指して泳ぐ人魚姫でしたが、岸まで泳ぎきれるとは到底思えません。


 なんとか浅瀬まで王子を抱えてたどりつくと、まるで蝋燭の灯が消えるように、ふっと身体中の力が抜けました。海の底から伸びた手に足を引っ張られるように、人魚姫の身体は水の中へ消えていきました。


 最期に見た王子の顔に、驚きの表情が浮かべられていることが、人魚姫の救いでした。

 

「ついに気付いてくれたのね。あの時も、今も、私が。

私は海に帰ります」

 

人魚姫は心の中でそう呟くと、はじめて人間の身体で王子の役に立ったことを喜びながら、波の中に消えて行きました。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「溺れる魚」って題から人魚姫以外のことが浮かばなかった。

しかし「溺れる魚」というお題からは少し外れてしまったかもしれない。

 

人魚姫のあらすじをwikiで読むだけでエモい。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E9%AD%9A%E5%A7%AB

 

しかし「王子を助けたのは自分だと伝えるため」に陸に上がったのに、

声を失ったからそれが出来ないだなんて、切ないけどオマヌケだ。

 

そして人間としては低教養だしおしだし素姓謎だし、だいぶダメな人間なのに

とにかく身体ひとつで好きな人のところに行くなんて、エモいけどやっぱりオマヌケ。

 

好きな相手に「何かしてほしい」と思うより、

「してあげたい。いや、したい」と思うのが素敵な恋愛だと思いますが、

「何かしたい。しなくちゃいけない。何もしないと自分のいる意味無い。価値無い。存在意義無い。」

と思い詰めてくのは喪女の典型

 

まあ、小学生の時から「王子を救う姫の話」ばかり書いてた私は

ボーン・トゥー・ビー・喪女なわけだ。

 

 

この「小説の基礎練」も、これで14本目になるわけだけど、

「童話調」「擬人化」「死ぬラスト」が多いなあと思う。

 

童話の文体はとっても書きやすくてものすごく速く書ける。

そして、短い時間でオチをつけないといけない基礎練とも相性が良い。

あと、私は童話がものすごく好きなのだよ。

小学生の時からグリムもアンデルセンも読破してたし大人になってからも何度も読んでる。「恐ろしい童話」ブームの前も、後もね

 

擬人化は、例えば「ポラロイドカメラ」や「地下鉄」というお題の時に

そのものをそのまま主人公にしてしまうというもの。

 

「死ぬラスト」が多いのは自分で不満である。

私、本編では「死ぬラスト」ってほっとんど書かないし、

読む側としても安易に死ぬラスト持ってこられるの大嫌い。

でもまあ、基礎練で、安易に「死ぬラスト」にしたものはひとつも無いつもりである。

 

 

そういえばtwitterでこんな心理テストがまわってきた。

http://www.tokyo-myc.gr.jp/sinsou15.html

 

みなさんもやってみるならやってみたあとで、
私の回答を見てもらえればと思うんだけど↓、

 

1)エモくて残酷

2)七割

3)死んでから愛に気付く

 

でした…………。まあいつも書いてる話マンマだな。

 

 

ちなみにちなみに童話が好きだと腐るほど言ってる私ですが、

渋澤的三大エモ絵本は

『いつまでも、ワニ』

『何でも見える鏡』

100万回生きた猫』

です。

 

『鏡』は絶版だから図書館で借りてね。命を賭けてオススメしますよ。

 

 

 

さてさて、純真だけどおバカな人魚姫、王子への愛は貫く必要があったのか。

一目ぼれだけで結婚できるのか。声が無くとも魂だけで愛は通じ合うのか。

 

倉橋由美子氏の人魚姫はオススメですよ。「大人のための残酷童話」に入ってるよ

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