即興童話でお勉強 2 コンビニおにぎり/恋/タイツ


昔、嘘つきバービーというバンドのVo& Bの岩下さんという人がブログでやっていた「即興童話でお勉強」というコーナーが死ぬほど面白かった。(今はサイト消失しているようだ)
なぜか私は紙に印刷して保存していたので今も読める。(それほど好きだった)
 
わたしもやってみることにする。

1はこちら



【即興童話でお勉強】
問題:
家族から適当に3つのキー単語を言ってもらい、それらの単語を絡めながら即興で童話を作りなさい。
 
答え:
【家族からもらったキー単語】
1.コンビニおにぎり
2.恋
3.タイツ

 
『ヤブれてしまう系の僕らに』
 
「あーもう絶対うまくできないこれー!!」
コンビニのイートインコーナーに座っている女子高生が派手に毒づく。手には、開封を失敗して海苔がビリビリになってしまっているおにぎりがある。すると入口の自動ドアが開いて
「お疲れさまでーす彼女にフられた岩本でーす遅番入りまーす!!」
パーカーを着て眼鏡をかけた若いやせ形の男がなだれこんでくる。膝でスライディングしてきて、つるつるした床を正座状態で滑り女子高生の足元で静止する。
「あ、パンツ見えそうポジション」
「うっせえよ!」
すかさず女子高生から蹴りが入る。
「誰だか知んないけどさあ! 私は今機嫌が悪いんだよ!」
「大変申し訳ございませんでしたー!!」
吹き飛んだメガネを拾ってかけなおすと、パーカー男は女子高生の手元のおにぎりをじっと見つめ、
「うん、おにぎり、うん! 僕、『陰毛がおにぎりの海苔みたい』って言ってフラれたんですよー! せっかく、きれいに整えたのに! 彼女、喜ぶと思ってやったのに! オサレなのに! ツーフィンガーなのに! ああー」
男は、メッカに祈るムスリム教徒のように床に頭をこすりつけながら泣き始める。女子高生はそれを無視しておにぎりを食べようとする。すると、
「動くな! 金を出せ!」
 入口からドスのきいた声がして、女子高生とパーカー男は揃って振り返る。黒い布で頭部を覆われ、全身も黒ずくめの、体格の良い男が、入口に立っている。手に握った包丁がぎらりと光る。女子高生もパーカー男も凍りついたように動かずにいるが、奇妙なことに男は入口に立ったまま中に入ってこようとせず、しばらくしてから、まるで薄氷を踏むようにおそるおそる歩き始める。と思ったら、マットの端に躓いて転んだ。包丁が床に落ちて硬質な音を立てて跳ねてこちらに滑ってきたので、パーカー男がすかさずつかみとる。
「だあー! だめだー! 間違ってストッキングじゃなくてタイツ被ってきちゃったから、厚くて全然前が見えねー! デニール!」
強盗男は、床を転がりながら悔しそうにわめいている。
「俺は何やってもダメなんだー! 全然うまくいかねー! ちくしょー!」
その隙に、女子高生は商品棚からガムテープをつかみとり、強盗男を素早くぐるぐる巻きにしてしまう。
「へへ、むしゃくしゃしてるんだ、おにぎりのリベンジだね!」
女子高生は若い男に「貸しな!」と言って包丁をもぎとり、いもむし状態の強盗男の首元にあてると、タイツに縦に切れ目を入れる。そこに指をいれてかっ開くとタイツがきれいに避裂けて、強盗男の頭部が出てきた。
「ほらー、今度はうまく開けられた。あれ、イケメンじゃん! ねえ、そんなやぶれかぶれなら、私と付き合ってよ!」
「いや、俺ゲイなので」
「なっ……」
 後ろで見ていたパーカー男がぷっ、と噴き出したのを聞いて女子高生は
「黙れこの、陰毛海苔野郎!」
と頭をはたく。
「え……、そちらの方、陰毛がそんなおしゃれな形に整えられているんですか……? 美意識高いじゃないですか! 素敵……!」
芋虫状態の強盗男が急にしなをつくってくねくねしだす。
「こんな自分ですけど、よかったら、付き合ってくれませんか?」
パーカー男は床につけた尻を後ずさりさせながら
「ヒッ、す、すみません……僕女の子好きなんで……」
おびえた声で返す。
「そっかー……そうですよねえ、はあ〜……」
「そ、それより」
パーカー男が、包丁を手に立つ女子高生を恍惚とした目で見上げる。
「あなたの、その躊躇のない蹴り、鮮やかな縛り、そして見事な罵倒っぷり……、もしかして、じょ、女王様をされてるんですか?」
「はあ? 何言ってんの?」
パーカー男が再びムスリム教徒のように頭を床にこすりつけて叫ぶ。
「ぼくの、女王様になってください!」
「あー? 意味わかんない。私女王様じゃないし、そっちのケ無いし、ごめん」
 各々は静かに解散した。破れたタイツ、破れたおにぎりの海苔、破れたズボンの膝を携えて。それと、一瞬で芽生え、破れた恋心を。
 
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「コンビニおにぎり」も「恋」も「タイツ」も全部破れるな、と気づいた。
あとは「タイツ→ストッキング→強盗」という連想が働いた。
キーワードはある程度「濃い」ほうがやりやすいかも。
キーワードくれる人募集中です。コメントに書いてね。

即興童話でお勉強 1 フランスパン/定規/警報


昔、嘘つきバービーというバンドのVo& Bの岩下さんという人がブログでやっていた「即興童話でお勉強」というコーナーが死ぬほど面白かった。(今はサイト消失しているようだ

なぜか私は紙に印刷して保存していたので今も読める。(それほど好きだった)本当は写メしてupしたいほどに面白いのだが、サイトが消えている以上それも行儀が悪い気がするので我慢しておく。 

とりあえず、わたしもやってみたくなったので、やってみることにする。
 
【即興童話でお勉強】
問題:

家族から適当に3つのキー単語を言ってもらい、それらの単語を絡めながら即興で童話を作りなさい。

 
答え:

【家族からもらったキー単語】
1.フランスパン
2.定規
3.警報 
 
『ハードじゃパン』
 
正門が近づくと、フランスパンを小脇に抱えた右腕にぎゅっと力がこもる。
1m定規で門柱をぴしぴしと叩きながら生徒を物色している生活指導の教師が目に入る。
「おはよう、加藤」
声をかけられて、思わずびくりと背を震わせてしまう。さっと私の脇に入り込んだ教師は定規を私のフランスパンにあてる。
83cm! 上限を3cmも超えているじゃないか!」
「す、すみません……今日起きるのが遅くて……」
「まさか家から買い置きを持ってきたのか? どうりでカッチカチなわけだ!毎朝焼きたてを買うのがパリジェンヌの基本だろう!」
 教師が私のフランスパンを、まるで硬さを確かめるように定規でぴしぴし叩く。
「お前、来春には留学する予定なんだろ? パンの乱れは心の乱れ! こんなパンを持ち歩いて笑われないのは日本だけだからな?!」
「はい、すみません、明日から気を付けます……」
背中に教師の睨みつける視線を感じながら、逃げるように去って教室に入る。
ここは、日本でも有数のパリジェンヌ養成高校。フランスに憧れ、フランス文化を愛し、将来はフランスに留学したい……というのは建前で、なんとなくフランスっておしゃれな感じがするしフランス人イケメンだし向こうでは日本人超モテるらしいしワンチャンないかな、と甘い夢を見る日本人乙女のための、留学準備校だ。両親を説得してこの学校にもぐりこんだものの、正直、眉唾モノだと気づいたのが遅すぎた。なんでフランスパン数cmのことでイチャモンつけられないといけないんだ。というかそもそも、本場のフランス人は本当に小脇にフランスパンを抱えているのか? 
むしゃくしゃするし、3cm食べてしまおう、ほかの教師にもねちねち言われるのは癪だし……かぶりつこうと大口を開けたところで、警報が鳴った。
「校舎に変質者が侵入しました! 北門から避難してください!」
そのアナウンスを聞き終える間もなく、教室にコートを羽織った中年の男が飛び込んできた。コートの中は全裸で、だらしなく開いた口の端からよだれを垂らしながら、にやにやした笑みを浮かべて教室の中へと進み入ってくる。泣き叫ぶクラスメイト達に委員長が言った。
「みんな! こういう時こそこれを使うのよ!」
委員長はフランスパンを構え、男に挑みかかった。しかし、まだ焼きたての芳醇な香りが漂う、標準長75cmぴったりの美しいそれは、男の手にかかるとふわりと折れてしまう。
「う~ん、じゅて〜む。とれびあ〜ん」
男はもぎとった委員長のフランスパンをむしゃむしゃと食べてしまう。
ほかのクラスメイトも次々とフランスパンを男に切り込んでいくが皆太刀打ちできず、男に食われるままだ。
「みんなどいて!」
 私は、昨日の買い置きの、かっちかちになった、不格好に長いフランスパンを日本刀のごとく構えて変態男に挑みかかった。
「これでもくらえ!」
 まだ食い足りないというようにあんぐりと開けている男の口めがけて振り下ろすと、男の歯が砕ける音がした。



・・・・・・・・・・・

昔見たファッション雑誌の「海外モデルのイケてるハロウィーンパーティレポ」みたいな記事で、
皆が気合の入った仮装をする中、白Tシャツ、ブルージーンズ、小脇に抱えたフランスパンのみの井出達で
「パリジャン」と称した男性がいて、非常に記憶に残っているのだった。
確か装苑とかVOGUEみたいなガチにハイクラスにおしゃれな雑誌だったので、驚きもひとしおだった。

 

小説の基礎練17:深夜テンション(お題:深夜番組)

 

小説の基礎練です。ルールはリンク参照。

 




たまに深夜番組なんかを観てしまうとうんざりする。

 

高級羽毛布団、bluerayプレイヤー、ワニ革の黄色い財布、カニ、つけるだけで痩せるマシーン、パン焼き機、青汁……冷静に考えれば絶対要らないもの、でもあればちょっと生活が良くなるような気がするものが、深夜に緩んだ人間の心の隙間めがけて押し寄せてくる。

これは要らない、これも要らない、これはちょっと……うん、やっぱり要らない。こんな大きなマシンどこに置くんだ。それにこういうのは大体作動音がうるさくて、「テレビを観ながら気軽にフィットネス」なんて出来ないんだ。意外と振動したりして階下の人に気を使ってしまったり。機械の掃除が面倒だったり。コンセントが短かくて不便だったり。室内物干しになるのが関の山だ。うん、要らない。

 

僕は自分の心の隙間を狙ってきた商品たちを打ち返しながら満足な気持ちになる。

 

こういう通販番組は非常に辟易することにひとつの商品を20分も30分もだらだらと紹介し続ける。しかも生放送の体裁をとり(実際は撮り貯めに決まってる)、画面右側に常に着々と増える数字が表示されている。

「只今、ご注文数が10000件を超えました! 完売間近ですので、どうかお早めにご注文ください」

なんて、司会があおる。

はあ、10000件。この国でこの時間に起きていて、この革のハンドバッグを買い求めそうな人間(年配の女性)がそもそも10000人もいるわけない。

「只今、レッドが完売しました!」

司会の女性が(リアルタイムを装って)興奮した様子で叫ぶ。なんなんだ。この国の民度に呆れ果てる。

 

ふと僕は、この番組を観ているのが僕一人じゃないかという妄想をしてみる。

生放送を演じる司会をはじめ、日本全国に散り注文をする無数のサクラがいて、僕にバッグを買わせるためだけに茶番を演じているとしたら、面白い。だとしたら意地でも最後まで観てやる。

 

さすがに30分以上も同じバッグを見続けていると少しは愛着が湧く。買わないけど。道ですれ違う人が持っていたら、会釈してしまうかも。天然革の美しさや皮革職人の住むイタリアの地方の名前、豊富な収納ポケット、底部が丈夫だということ等、売り文句をすでに覚えてしまっている。

 

バッグを売り始めてからついに一時間が経った。この手の番組がいくらダラダラ商品を紹介し続けて精神を麻痺させて商品を購入させる作戦をとっているにせよ、異様に長い。しかし僕はテレビを消すことは出来ない。この番組の終わり方が気になる。

 

ついにバッグが全色完売し、司会の女性の安堵した顔が映った。実に販売開始から一時間半経っていた。

 

僕が番組を観切ったという満足感とともに窓を見やると、東の空がすでに少し白み始めていた。何、もう夜が明け始めているなんて。

時計を見ると4時であった。

なんてことだ。僕はくだらない通販番組のために貴重な睡眠時間を無駄にしてしまった。一日の始まりを台無しにしてしまった。虚脱感と自己嫌悪に襲われ、あー、とため息とも小さな叫びともとれる小さな声をあげた。

 

まだ通販番組は続いていた。次に紹介されているのは「朝」だった。

「朝日降り注ぐ、爽やかな一日の始まりをあなたにお届けします! 当番組のイチオシ商品です!」

僕は迷わず、画面下部に常時表示されているフリーダイヤルへ電話をかけた。

 

数日後に「朝」が届いたものの、僕は頭を抱えていた。

両腕を広げた幅以上に大きく、洗濯機並みに重い、段ボールに包まれたそれは、移動もままならず、宅配便の届け人が置いた場所のまま、部屋の中央にましましている。

開けたらいきなり作動するのか、大きな音はするのか、「朝」の適用範囲はどこまでなのか、ご近所の迷惑にはならないのか……不安が大きすぎて荷をほどくことさえ出来ずにいる。

そもそも朝なんて、僕が等しく一日ひとつ持っているものであって、買う必要なんて無い、

「絶対に要らないもの」だったんだ。

一日に二回朝が来たって、調子が狂うだけだ。ああ……。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

深夜テンションをバカにして「僕はひっからないぞ」と思ってる人が、自分が深夜テンションに巻き込まれていたことに気付いた時の自己嫌悪のあまり変なものを買ってしまうというお話でした

 

私は朝派です。今日も五時半起きです。

大体一時間半ほど、小説を書いたり本を読んだりしてから出勤しています。

これを始めたのは今年の二月くらいなんだが、あきらかに調子が良い。

というのも朝は一番集中力が出るのだよね。

こんなに能率がいい時間を職場に明け渡してなるか、と思って頑張って早起きしてる

 

その分夜も早く寝るから、深夜のグダグダTLに巻き込まれないで済むなどの

メリットがあります笑

デメリットとしては、飲み会とか行くとガタガタに崩れるというのと、

友人とメールの時間帯がずれるってことだな

(私が朝イチにメール返信すると普通に迷惑だからな笑)

眠くてライヴハウスも最後の一バンド観れないぞ!笑

 

 

夜と言えば、私のものすごく好きな作家アゴタ・クリストフの

短編集「どちらでもいい」の中に入っている「夜盗」という話が大好きです。

1000字もいかないくらいのド短編だからここに全文引用したいくらいなんだけど、

著作権が気になるのでやめておくわ。ぜひ本借りて読んでください。

ちなみに私のモウスト・フェイバリット・アゴタ・クリストフは

「悪童日記」なのでそちらも是非ご一緒に。

「悪童日記」は、もう人生で5回以上読んでる。いつかああいうの書いてみたい

小説の基礎練16:子供の階段(お題:階段)

 

小説の基礎練です。ルールはリンク参照。

 

 

わたしももう六年生だ、そしてもうすぐ卒業なんだな、と、毎朝この階段を上るたびに思う。

 

この小学校は上の学年ほど上の階に教室が置かれる。

一年生の時は一階の教室のべランダから直で校庭に出て、昼休みの時間いっぱい外で遊んだものだ、と、昇降口付近を駆け回るちびっこ達を見ながら思う。

高学年の今は一階まで下りて外に出るのも億劫だし、女子同士でおしゃべりしながら休み時間を過ごすことが多い。

 

小学校って不思議なところだなあと思う。一年生と六年生、心も体も育ち具合が全然違う人間がひとつの建物に入っている。同じ遊具で遊べと言うのもおかしいくらい、違う生き物なのに。

 

上級生がいる上の階はちょっと怖いし、でもちょっとあこがれていた。今は自分がそこにいるのだと思う。

 

一階と二階の間の踊り場には鏡がある。いつもの癖で、別に見るともなく自分を見てしまう。

でも今日はおかしなことに気付いた。

「あれ」

私は今日は赤いチェックのスカートを履いていたはずなのに、鏡に映る私は体育着、しかも上履きの色は赤。今よりずっと背が小さくて、髪も短い。これは……小三の時の私じゃないだろうか。

鏡の中から「あずみちゃん」と私の名を呼ばれたので、思わず手を伸ばす。そのまま鏡の向こうの誰かに手をひっぱられて、鏡の中に入ってしまった。そこにいるのはえりかちゃんだった。場所は校庭。聞こえるみんなの歓声。運動会だ。

 

なんでこんなところにいきなりワープしてしまったんだろう。私は何かを握り締めているようだ、と気付いて手を開くと、100m走で一等賞になった子に渡される小さな引換券が出て来た。それを見た瞬間、私の頭は記憶のぶりかえしでぐわんぐわん揺れた。

 

えりかちゃんは100m走で一等賞になったのに、この引換券をなくしてしまった。というか、えりかちゃんのポケットから落ちたのを二等賞の私がこっそり拾って、ねこばばしてしまったのだ。その引換券を町内会のテントに持っていくとお菓子が貰えるのだけど、食い意地の張っていないえりかちゃんは無くしたことを全然気にしていない様子だったので、わたしはありがたく頂戴してしまったのだ。でも翌日、えりかちゃんはお母さんからこっぴどく怒られたのだと聞いた。無くしたならちゃんと町内会の人に説明してもう一回貰いなさい、あんたは押しが弱すぎる。何より一年生の弟が、そのお菓子に含まれているカード入りポテチを貰えるのを楽しみにしていて、とてもがっかりしていたらしい。

 

翌日そんなことを聞いてからますます打ち明けられなくて、今まで来てしまった。

でも、今なら言える。

「えりかちゃん、これ、落としたよ」

「あ、ありがとう」

えりかちゃんの手にそれを渡したと思ったら、その腕を引っ張られて再び鏡の外に戻されていた。

 

鏡にはちゃんと、赤チェックのスカートを履いた今日の私が映っている。

「なんだったんだろう」

私は首をかしげながら再び階段をのぼりはじめた。

二階と三階の間の踊り場にも鏡はある。なんとなくまた覗きこんでしまったら、今度はスクール水着を着た私が現れた。胸には大きく「4-2 芹沢」のゼッケンが縫い付けられている。

またしても鏡の中から私の名前を呼ぶ声がする。私はずんずんと鏡の中へ進み入った。

 

そこは学校のプールだった。目の前には見学者が座る用の小さなテントがある。そこにいたのはかおりちゃんだった。

私はまたもや記憶の中にあった苦しい気持ちに襲われた。

わたしはこの日、週に三回あるプールの時間を全部休んだかおりちゃんに、「ずる休みなの? 本当にそんなにお腹痛いなら学校休めばいーのに、おかしくない?」と心無いことを言ってしまったんだ。わたしがブールが大嫌いだったから、休みっぱなしのかおりちゃんを僻んで、ずるしてる、と思ってしまった。でも今なら分かる。かおりちゃんは生理だったんだ。それに気付いたのは、この時から一年も経った最近のことで、私にも生理が来たからだ。あのときは本当に申し訳無かった。

 

私は今度は何も言わないで、かおりちゃんの傍を通り過ぎることができた。むしろ「ごめん」って言ってしまいそうなくらい、申し訳無い気持ちでいっぱいだった。

 

胸のつかえが下りてほっとした間もなく、また誰かに引っ張り出されるように鏡の外に戻って来た。やはり、鏡は何事も無かったように赤チェックのスカートの今の私を映している。

なんなんだろう、本当に。早くしないと始業のチャイムがなる。私は自分の教室がある四階を目指した。

 

三階と四階の間にも、鏡はある。やっぱり見るわけにはいかなかった。そして今度はそこには、白いシャツにリボンにブレザー、よそいきの格好をした私が映っていた。あれは、五年生から入った器楽クラブの発表会の格好だ。

 

鏡に入ると長谷川先生が指揮台に立っているのが見え、私はピアノの前に座っていた。リハーサル中みたいだ。

長谷川先生はいつも私にピアノを弾かせた。ピアノは花形だし、私は嬉しかった。けど、私よりピアノの上手い子がいたのだ。まどかちゃんだ。

まどかちゃんは何人もいる鍵盤ハーモニカのリーダーをやっていた。

なぜか長谷川先生は、まどかちゃんばかりを叱った。私がリズムを崩しても鍵盤ハーモニカのせいにしてまどかちゃんを注意した。私は一度も何も言われず、もどかしい気持ちを抱えながらも言いだせなかった。何度も同じ個所を間違えているのは私なのに。ああ、もう少しするとまどかちゃんは泣いてしまうんだ。その前に私は、今度は、言わなくては。

 

「ねえまどかちゃん、私、ここの譜面が何度見てもよく分からないの。まどかちゃんお手本弾いてみてくれないかなあ」

 

まどかちゃんの目からこぼれそうになっていた涙をひっこめることができた。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている長谷川先生を見て、すかっとした。

 

また元の世界に引き戻された。私は四階まで駆け上り、チャイムぎりぎりに教室に滑り込んだ。

そして息を弾ませながら、自分の席に座ると、えりかちゃんもかおりちゃんもまどかちゃんも、今、同じクラスにいることに気がついた。

 

あの階段の不思議な出来事で、私は分かった。過ぎてしまった昔のことを、今更無しには出来ない。自分のせいで、えりかちゃんとかおりちゃんとまどかちゃんとは距離を置いてしまい、同じクラスなのになんとなく話しにくくなってしまった。

でも、今ならまだ同じ教室にいる。これが中学になって離れ離れになったら、多分一生謝れないところだった。向こうが忘れてしまっていてもいい、「今更何」とむかつかれてしまってもいい、休み時間になったら三人に話してみよう。

 

私は気付いていた。多分あの階段は、私が大人になるまで続いている。ううん、一生続いている。だから一生ちくちくと思いだしては、嫌な気持ちになるんだろう。だったら、まだ、今謝った方がいい。大人になったら、一生会えない人なんてどんどん増えていくんだろう。六年間同じところにずっといるのは、ラッキーなことだ。

 

ガラッと戸が開いて、先生が入って来た。担任は器楽クラブの顧問と同じ、音楽の長谷川先生だ。

いつも通りの朝の会が始まり、先生が今日の掃除当番を読み上げた。

「今日は五班ね。四谷君、飯田君、橋本さん、春日さん、よろしくね」

私はまた、胃が痛くなるような気持ちに襲われた。

「先生、私も五班ですけど」

私は勇気を出してそう言った。長谷川先生はこともなげにこう答えた。

「ああ、芹沢さんは昨日ゴミ捨てを手伝ってくれたでしょ? だからいいの」

先生は私にだけ見えるようにウインクをした。嘘だ。ゴミ捨てなんか手伝ってない。

「そういうひいきやめてください」

私は立ち上がって、勇気を出して大きな声で言った。

先生は鏡の中と同じ、虚を突かれたような顔をしていた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

久々にやりました、「基礎練」。

制限時間2時間、テーマ縛りで小説を書くというものです。

久しぶり過ぎて30分くらい過ぎた……あと二日に分けてやってしまった……

まあいいんだよ、いくらルール破っても、続けないよりは……!!

 

一番いいのは人とやることで、

一同に会してテストみたいに「はい、始め!!」ってやることなんだけどね。

まあやりたくなったら今度誰か一緒にやりましょう。

禿げるほど疲れるぜ……

 

 

さて、「階段」と言えば「大人の階段」だよね!(!)

でもなんか私この言葉嫌いでさ

というのも子供から大人に一直線で成長するわけじゃないし、

子供の方が優れた部分もいっぱい持ってるはずだと思うからなんだよね

つまり人間の成長に段階発展説をとるのに反対の立場なんだよね

 

というわけでひねくれて「子供の階段」というタイトルにしてみました

これは「大人になれば、「後悔するような苦い出来事」を抹殺出来るわけではなく、

むしろ全然がんがん生産し続けてしまうんだけど、子供の時の方がまだ謝りやすいよね」

みたいな意味を込めてみた感じだ

書いたとおり、一生階段は続くし、でもそれは進歩しているんではなく、黒歴史を積み重ねているだけなんだよ……!!

 

 

さてこの「基礎練」は、2時間しか無いので、ラストまで決める間もなく序盤を書き始めないと、間に合いません

本当はトラウマイベントに男子女子両方出したかった、とか、長谷川先生のひいきをもっと巧妙なものにしたかった、……とか、あるんだけど、まあ時間が無いので思いついたものでやるしかなかったのさ……

 

書くにあたって自分の小学校での記憶を思い出してたら「あああああ」ってなりました。

習字の時間に前の席の天野君の椅子にかかってた白いパーカーに、墨つけちゃって、黙ってて、ごめんね……あと天野君は私が似顔絵を描いたら泣いてしまった……ごめんね……

 

 

小説の基礎練15:馬蹄をあらわす(お題:小指の爪)

小説の基礎練です。詳細はリンク参照。

 


「小指の爪、どうしたの、ケガ?」

 

今思うと僕も緊張していた。どこを見ていいか分からず足元ばかり見ていたら、彼女の足お小指の爪が不自然に赤く染まっていることに気付いて、どうでもいいのにそんなことを言った。

 

「ううんペディキュア」

「ペディキュア?」

「マニキュアを足の指に塗るのそう言うんだよ」

「ふうん……」

「校則厳しいからマニキュアつけたら怒られるからみんなペディキュアで我慢してる。つってもソックス履くから見えないんだけどね。でもなんかちょっと楽しいじゃん。でも昨日プールなのに落とし忘れちゃって怒られた。だから落としたんだけど小指の爪ってなんかちんちくりんじゃん?」

 

と彼女は早口で言うと便器の蓋の上に片膝を立てて小指の爪を見せた。

 

「なんか、肉に埋もれてゴミみたくくっついてる。だからうまく塗れないし、落とせないし、ま、これくらいいっかーと思って」

 

彼女は片足を元に戻すと再び作業――キスを終えると僕のズボンのチャックを下ろし始めた――に戻った。僕は自分のベルトが他人に外されるカチャカチャという音を上の空で聞きながら、まだ彼女の言葉が頭の中にひっかかっていた。

 

ということは、この厚底サンダルを履いた脚は随分大人びて見えるけど、

 

「高校生なの? 大学生かと思ってた」

「ううん中学」

「中学?!」

 

僕はチャックから中身を取り出そうとする彼女の肩を持ってひっぺがした。

 

「なんで? だめ?」

 

そう言う彼女の顔をまじまじと見ると、確かにきつい化粧の下にうずもれた素顔は幼なそうである。さっきの一方的な早口も、子供っぽいというか、いやむしろ彼女も緊張していたのか。

 

「中学生だからバイトも出来ないしお金も無いの。いいでしょ、慈善事業だと思ってさ」

 

僕はふにゃふにゃと便器に座りこんだ。

 

校則は守るのに、もっといけないことはするんだな、という台詞が出かかったが、喉の奥に押しとどめた。はるかにいけないのは僕、ということになる。

 

 

映画館から出てきた時に、映画面白かったですね、と声掛けられたのだった。それでお茶をして話がまとまって、そのままその店の男性トイレに二人で入ったのだった。

その後何度目かに会った時も、まだ彼女は足の小指の爪は赤かった。

 

「ていうかむしろ塗り直してる。小指だけだったら先生気付かないし」

 

ベッドの上で手足をしゃかしゃか動かして全身でシーツの感触を楽しんでいる裸の彼女の唯一の意思とか、反抗心をあらわすように、小さな赤が光っていた。

中学生の女の子はヘアピンとか、ケータイのストラップとか、身体の周りの小さなものにこだわりをもつ。その中にその爪も入っていると思うとかわいらしかった。

僕があげた金はそういうものや、友達と遊ぶのとか、CDとか漫画に消えていくらしかった。つつましいものじゃないか。

 

 

 

夏休みが始まり、彼女のようなサンダルにミニスカートの子供の姿があふれだした。

僕がたまたまあの時の映画館で映画を見て、あの時と同じ喫茶店に入って、用を足そうと思った時、扉の下から見覚えのある小指の爪がのぞいていた。もちろんここは男子トイレだ。

 

「……」

 

分かっていたはずだ。自分だけじゃないと。何を思いあがっていたんだか。いや、分かっていたけど気付かないふりをしていたのか。「私はブランドのバッグとか要らないからパパはひとりで十分だし。そういうの欲しがる子もいるけど」そういう言葉を鵜呑みにしていた。

 

僕はそれからその喫茶店や街のいたるところのトイレに入っては。足元をのぞく癖がついてしまった。そのために街をぶらつくこともあるくらいだった。

 

 

早く秋が来ればいいと思った。サンダルの季節が終われば、と。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

こまった時のエロ頼み。

 

 

足の形って人それぞれなのに普段あんまり見ないから、

だいたい他人のを見ると「変なのー」って思う。

自分の形が一番普通できれいなものだと思ってしまっている

でも他人に見られたら「変なのー」と思われるのだろう

 

手の爪もわりにそんなところがある。

この前「爪のきれいさだけは自信がある!!」とか言って

手の画像をtwitterに上げてた人がいたけど

「変な爪―。でかすぎ」と思っただけだった。

 

他人の足の爪なんてもう最強に気持ち悪いですよねー。

 

気持ち悪いと言えばこの主人公の男もきもちわるいなーと思います。

気持ち悪いなーと思いながら書きました。

 

 

 

ペディキュアと言えば、

おなじみ綿矢りさ「インストール」でも名シーンがありますね。

主人公の女子高生に風俗チャットを紹介したマセガキの家に早朝に忍び込む時

ペディキュアした自分の足みて

「ああ私女泥棒みたい」

って思うんだよね。

 

マニキュア、ペディキュアは自分の視界に入るから

自意識に与える影響が大きいらしい。

(確かにどんなに化粧しても自分じゃ見れない)

 

というわけで小説の題材にもなりやすいにちがいない。 

小説の基礎練14:溺れる人魚(お題:溺れる魚)

 

小説の基礎練です。詳細はリンク参照。



 

 人魚姫はやりきれない思いでした。王子を助けたのが自分であることを伝えるために人間の身体を手に入れたのに、声を失ったためにそれが出来ずにいるのでした。しかも浜に打ち上げられた王子を見つけた別の娘が、王子の命の恩人としてすっかりまつりあげられ、婚約の話も持ち上がってきているのでした。

 

 声を失っても王子のそばへ行きたい、声が無くても想いは伝えられる、そう思っていた自分のせいだから、良いのです。ただ、別れ別れになってしまった姉たちを思うと胸が締め付けられるのでした。王子と一緒になることが自分の一番の幸せだと思って、苦渋の決断をして陸へ送り出してくれたのに。

 

 昨日、姉たちが魔女からの伝言を伝えに来たのでした。
「王子の胸を短剣で突き刺せば、あなたは人魚に戻れる」。
そう言った姉たちが、王子を犠牲にしてでも海に戻ってきてほしいと願っていることは痛いほど伝わってきました。久しぶりに姉たちの姿を見て、海に帰りたい、王子のことなんか忘れて、また家族で暮らしたい、そうも思いました。

 

 なんでこんなところに来てしまったのだろう、とも思いました。

 

 自分をかくまっているために王子の立場はどんどん悪くなっていました。いくら王子とはいえ、海辺で一目ぼれした素姓の分からないおしの娘をいつまでもお城にかくまっておくことはできません。あの娘と結婚するのならなおさらです。

 

 自分は王子を助けた。だからと言って、それだけで好きになってもらえるとも、いつまでも一緒にいられるとも思っていません。

 

 でももう少しだけそばにいたい。しかしそれこそが、王子の立場を悪くしている。

 

 尾ひれと声を失った自分は、できそこないの人間、泳げない魚。何もできない存在なのに、王子の傍にいたいだけ。

 

 ポケットに入れた短剣を見つめたり、握り締めたりしながら、人魚姫はずっと考えていました。

 

 

 

 その日も船上パーティがあり、王子も、人魚姫も船に乗り込みました。

 ああ、十七歳の誕生日、私が王子を助けた日と同じ。

 そう人魚姫が思いながら海を見つめていると、海の色までが同じなので人魚姫はハッとしました。

 人魚姫の予感は的中し、突然強い風が吹きすさび、海は荒れ、船は大きく揺れだしました。

人魚姫が王子のもとに駆け寄るのと、船がひっくり返るのは同時でした。二人は海へ放りだされました。


 人間の身体となった今は海は恐怖でしかありませんでした。尾ひれの無い身体は油断するとどんどん沈みます。

 今この人を短剣で刺せば、私は救われる。そう思ったけれど、ポケットの中の短剣を抜くことはどうしても出来ませんでした。

溺れる王子の身体を抱えながら岸を目指して泳ぐ人魚姫でしたが、岸まで泳ぎきれるとは到底思えません。


 なんとか浅瀬まで王子を抱えてたどりつくと、まるで蝋燭の灯が消えるように、ふっと身体中の力が抜けました。海の底から伸びた手に足を引っ張られるように、人魚姫の身体は水の中へ消えていきました。


 最期に見た王子の顔に、驚きの表情が浮かべられていることが、人魚姫の救いでした。

 

「ついに気付いてくれたのね。あの時も、今も、私が。

私は海に帰ります」

 

人魚姫は心の中でそう呟くと、はじめて人間の身体で王子の役に立ったことを喜びながら、波の中に消えて行きました。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「溺れる魚」って題から人魚姫以外のことが浮かばなかった。

しかし「溺れる魚」というお題からは少し外れてしまったかもしれない。

 

人魚姫のあらすじをwikiで読むだけでエモい。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E9%AD%9A%E5%A7%AB

 

しかし「王子を助けたのは自分だと伝えるため」に陸に上がったのに、

声を失ったからそれが出来ないだなんて、切ないけどオマヌケだ。

 

そして人間としては低教養だしおしだし素姓謎だし、だいぶダメな人間なのに

とにかく身体ひとつで好きな人のところに行くなんて、エモいけどやっぱりオマヌケ。

 

好きな相手に「何かしてほしい」と思うより、

「してあげたい。いや、したい」と思うのが素敵な恋愛だと思いますが、

「何かしたい。しなくちゃいけない。何もしないと自分のいる意味無い。価値無い。存在意義無い。」

と思い詰めてくのは喪女の典型

 

まあ、小学生の時から「王子を救う姫の話」ばかり書いてた私は

ボーン・トゥー・ビー・喪女なわけだ。

 

 

この「小説の基礎練」も、これで14本目になるわけだけど、

「童話調」「擬人化」「死ぬラスト」が多いなあと思う。

 

童話の文体はとっても書きやすくてものすごく速く書ける。

そして、短い時間でオチをつけないといけない基礎練とも相性が良い。

あと、私は童話がものすごく好きなのだよ。

小学生の時からグリムもアンデルセンも読破してたし大人になってからも何度も読んでる。「恐ろしい童話」ブームの前も、後もね

 

擬人化は、例えば「ポラロイドカメラ」や「地下鉄」というお題の時に

そのものをそのまま主人公にしてしまうというもの。

 

「死ぬラスト」が多いのは自分で不満である。

私、本編では「死ぬラスト」ってほっとんど書かないし、

読む側としても安易に死ぬラスト持ってこられるの大嫌い。

でもまあ、基礎練で、安易に「死ぬラスト」にしたものはひとつも無いつもりである。

 

 

そういえばtwitterでこんな心理テストがまわってきた。

http://www.tokyo-myc.gr.jp/sinsou15.html

 

みなさんもやってみるならやってみたあとで、
私の回答を見てもらえればと思うんだけど↓、

 

1)エモくて残酷

2)七割

3)死んでから愛に気付く

 

でした…………。まあいつも書いてる話マンマだな。

 

 

ちなみにちなみに童話が好きだと腐るほど言ってる私ですが、

渋澤的三大エモ絵本は

『いつまでも、ワニ』

『何でも見える鏡』

100万回生きた猫』

です。

 

『鏡』は絶版だから図書館で借りてね。命を賭けてオススメしますよ。

 

 

 

さてさて、純真だけどおバカな人魚姫、王子への愛は貫く必要があったのか。

一目ぼれだけで結婚できるのか。声が無くとも魂だけで愛は通じ合うのか。

 

倉橋由美子氏の人魚姫はオススメですよ。「大人のための残酷童話」に入ってるよ

小説の基礎練13:地上で一番大きな死骸(お題:かみなり)

 

 小説の基礎練です。詳細はリンク参照。


教会のふもとには小さくて美しいモミの木がありました。

クリスマスが近づくと、子供たちによって美しい飾りがかけられ、小さなモミの木はいつも得意げでした。

その隣には大きく育ちすぎたモミの木がありました。

葉は誰も手も届かないほどに高く、子供たちは飾りをつけることもできません。

背も見上げれば大人でも首が痛くなるほどで、目まいがしてうんざりしてしまいました。

しまいには町で一番高い建物である教会よりも高く育ち、教会に覆いかぶさるように広がった葉が日当たりを悪くしていました。

 

「あののっぽのモミの木さえなければね」

「前はステンドグラスに差し込む朝日がとても美しかったのに」

「あんな木、伐っちゃうことはできないのかね」

「司祭さまが優しいから……」

 

教会を訪れる人々はモミの木を見上げながら悪口を言うのでした。

それを聞くたび、のっぽのモミの木は身をすくめながら思うのでした。

 

「僕だってこんなに大きくなりたかったわけじゃない。なのに、身体が育っていくのを止めることはできないんだ。恥ずかしくて申し訳なくて仕方ないんだ……」

 

 

クリスマスが近づいたある夜、急に天気が悪くなり、暗雲が立ち込め雷鳴が轟き、激しい雨が降り始めました。

小さなモミの木がまとっていた飾りは銃弾のような雨粒に打たれて全て落ち、もはや立っているだけで精いっぱいです。

教会も、自慢のステンドグラスを雨に打ち砕かれないかと震えあがっています。すでに一階は水浸しで、クリスマスのために準備されたパンもワインも御馳走も台無しでした。

二人とも落雷が聞こえるたびに失神しそうなほどに怯えています。

のっぽのモミの木はそんな二人を見下ろしながら考えていました。

 

「雷は高いところに落ちる。僕は二人を守ってやることができる。

のっぽなだけで何にも役に立たない、むしろ嫌われ者の僕だけど、最後にみんなの役に立つことができたら」

 

そう思うとのっぽのモミの木は普段すくめがちな背をぴんと伸ばし、葉をいっぱいに広げました。

小さなモミの木には痛いほどの雨粒も、丈夫なのっぽのモミの木にはむしろ気持ち良いくらいで、もっともっと水を吸って大きくなりたい、と生まれて初めて思いました。

 

「もっと、もっと、大きくならないかなあ!」

 

そう願うと本当に背が伸びていくみたいで、雷を落としている雲に少し近づいたように思いました。

すると気のせいでなく本当に、のっぽのモミの木の背は伸びていたようです。雲の独り言が聞こえてきたのです。

 

「ああ、悲しい。悲しい。僕だって落としたくて雷を落としたいわけじゃないんだ。だけど、身体に溜まっていく電気を抑え込むことが出来ないんだ。みんな僕のせいで死んでしまう。美しい建物を壊してしまう。悲しくて、申し訳なくて仕方無いんだ……」

「雲さん、雲さん!」

 

のっぽのモミの木は嬉しくなって話しかけました。

 

「僕に雷を落としていいよ」

「え? そんなこと言ってくれるのかい?」

「だって、僕たち、そっくりなんだもの。多分僕は、君の雷を受けるために生まれてきたんだよ」

「そんなことってあるのかい」

「うん。僕はクリスマスを楽しみにしているこの町の人たちを守りたいんだ。伸びすぎちゃってクリスマスツリーにもなれない僕は、多分それが唯一の出来ることなんだ」

「ありがとう。神様に口利きをして、君のことは僕が必ず天国へ連れて行ってあげるよ」

 

そう言うと雲はのっぽのモミの木の上に雷を叩き落としました。

激しい衝撃とまばゆい光が全身を貫くのを感じながら、のっぽのモミの木は、最期に「天国ってこんな感じなのかなあ」と思いました。

 

 

息絶えたのっぽのモミの木の身体は、巨大な音を立てて崩れ落ち、教会と小さなモミの木を完膚無きまでに圧し潰しました。

 

 

 




 

・・・・・・・・・・・・・・・

おわた。

 

雷が「神鳴り」で、神様と関係あるものだとは世界各地の人が思っているようだ。

 

それから疑問なんだが、避雷針のある建物に雷が落ちた場合、中の人は生き残るのだろうか。

だとしたらそんな経験をしてみたい。神の御心に洗われて人格総入れ替えとかしたら面白い

 

 

時にこの小説は構想に時間かけすぎて時間なくなり、パソコン直打ちで書いたのだが(普段は紙に下書きしてからパソコンで打つ)、

こんなツイートを見かけた

 

https://twitter.com/Mr_ozin/status/220127939637936128

 

『心理学の先生曰く、2chに書かれている罵詈雑言は手書きだと書けないそうです。パソコンだと簡単に文字が出るので、そういう事が書けるのだそうです。確かに僕も、「今日も脳内彼女と一緒にお昼のお弁当ターイム!」なんて手書きで書いたら泣きたくなります。

 

だとしたら、手書きで書くのとパソコンで書くのでは小説の仕上がりに決定的な違いが出ることになると思うのだが、どうだろうか。

 

私がなんで手書きで書いてるかというと、PCだと気軽に語句挿入出来て「あれもこれも」ってなりがちで、役所の文面みたいになっちゃうんだよね。

『締め切りは33112時(必着)で、郵送に限る(速達)。』みたいな。

文章は基本的に初めて書いたものが一番良く、つぎはぎすればするほど悪くなっていくと思うので、

あまり手を入れない方がよく、手入れをするなら根本的にすべきなのよね

 

とは言え、初めて書いた時に書き飛ばしてしまって分かりにくいものもあるので、

そういう最小限の手入れをしつつPCに清書するという感じでしょうか。

 

いい加減出勤するね☆

小説の基礎練12:オムレツになるしか能が無いのに、生まれてきちまったのかこのヒヨッ子(お題:オムライス)

小説の基礎練です。詳細はリンク参照。 

 

 

「ご主人様、オムライスの起源ってご存知ですかー?」

「ん、起源って? 最初に作った人ってこと?」

「そうです!」


 そう言ってハルカは微笑んだ。

僕の目の前には注文したオムライスが運ばれてきており、いつもなら常連の僕の名前を聞かずとも書き出す彼女が今日はケチャップボトルを握ったまま手を動かさない。

「オムライスってどこの国生まれだと思いますか?」

「うーん」

オムライスは洋食の定番だから日本な気もするが、オムライスの元の言葉であろうオムレットはおそらくフランス語なので、


「フランスかな?」


と答えると、


「そう、さすが大学教授―!」


と猫耳を揺らして褒めてくれる。胸元についた鈴もフリルと一緒に揺れてちりちりと鳴る。だいたいハルカは意味も無く褒めてくれる。


「あたしもこれ聞いてびっくりしたんですけど、フランス革命のときに出来たらしいんです。なんか、オムライスってハタがついてるじゃないですか」


と言ってハルカが私のオムライスの日の丸をつまむ。いつもオムライスに名前を書く時に邪魔なので、さっさとはずしてしまうものだ。


「これ、もともとはフランス国旗なんだそうです。フランス革命の時、勝利を祝って作られた料理なんだって」

「ふうん」


なんでいつも頼んでいるメニューに対して今日は突然そんな説明をするのかと訝しんでいると、


「それでね、ご主人様……。『民衆を導く自由の女神』って絵、知ってますか?」

「ああ、もちろん知ってるよ」


 ドラクロワの有名な絵画だ。フランス国旗を掲げた女神が武器を持った民衆を従える、勇ましい絵。


「あれに似てません?」


と言ってハルカがオムライスを指差した。


「似てるか……? 別にハタ以外、似てなくないか」

「いえ、似てます!」


ハルカが断言する。


「ハタだけじゃなくて、ハタを持ってる女神様の下って、こんな感じに、こんもりしてるでしょ……ほら……」

「ああ……」


 僕は絵の微細を思い出した。確かに女神と民衆は地面の上に立っているわけではない。その足元には、


「死体がたくさんある」

「そうです。それから、ケチャップが……」


と言って胸にケチャップボトルを引き寄せたハルカがにんまりと笑った。


「血ってことかい?」

「そうなんです」

「てことは、オムライスていうのはあの絵を模した料理なのかい?」

「はい。そうだったんですよ!」


 僕はその話自体より、わざわざそんな話をし始めるハルカへの疑問が大きくなっていた。メイド喫茶のメイドは学のあるところなぞは見せない。客に嫌われるからだ。それともハルカは大学教授である僕に合わせて学のある話題を振ってくれているのだろうか。確かにハルカの賢そうなところが僕の気に入る理由ではあったけれど。エグい話題選びも、ちょっと毒のあるキャラのハルカには合ってはいるけれど。


「ははあん、随分悪趣味なんだな、フランス人っていうのは……」

「だから本当のオムライスはチキンじゃなくて、殺した人間の肉で作ってたらしいですよ」

「まさか、それは都市伝説だろう」

「うふふ、でもねご主人様、クロワッサンの起源は知ってます?」

「ああ、あれはオーストリアがトルコに勝ったときに、トルコ国旗の三日月を模して、『トルコを喰っちまえ!』ということで作られたんだろう」

「あ、さすが先生〜ご存知なんですね」


 今度のは本当に褒められたようだった。


「そう、食べることによって敵を征服しようって考え方、結構よくあると思うんです。だからね、人肉オムライスっていうのもあり得るかもしれませんよ?」

「そう言えばオムってフランス語で『人間』って意味だな」

「あ、それ今言おうとしてた。そうなんです、『オムレツ』の『オム』から来てるって説と二説あるんだそうですよ」

「それでさあ、ハルカちゃん、冷めないうちにそろそろ食べさせてよ、腹減ってるんだよ」


 試しにハルカに揺さぶりをかけてみる。


「あっ待ってご主人様、それでね、そんな黒い歴史のあるオムライスにはジンクスがあって……、嫌いな人の名前を書いて食べると、その人を呪い殺せるんだって!」

「はあ」


 それでなかなかケチャップをかけなかったのか。


「だから、今日は、ご主人様の名前じゃなくて、ご主人様の嫌いな人の名前を教えてください、私が、がんばって、書きますから! 呪いを込めて!」

「ほお……そういうことですか……」


 僕がしばし沈黙するのを、ハルカは嫌いな人を探す沈黙であるととったようでにこにこ僕を見つめている。

しかし僕は別なことを考えていた。

この店も含め、メイド喫茶をはじめとするコンセプトカフェはイベントが月に何度もある。

今日は随分つっけんどんにオーダーをとるなあ、と思ったら入口の黒板にでかでかと「ツンデレデー」と書いてあった、なんてこともある。

だから不思議なことが起こった日には、今日は何かのイベントだろうかと考える必要がある。
 そしてすぐ思い当った。今日は4月1日じゃないか。


「ハルカちゃん、そんなこと言ったら、自分の名前を何度も食べてる僕はとっくに自殺してるじゃないか」

「あー、えーっと」

「今日はエイプリルフールだね」

「あー!」


 ハルカが悔しそうに叫んだ。


「いけると思ったのにー!」

「作り込みすぎたのが敗因だったな」

「だってえ、その方がご主人様はいいと思って……ああ、悔しいーもうちょっとだったのにー!」

「もうちょっとじゃないよ、大分怪しんでたよ」

 退店間際に知ったのだが、その日一番多くご主人様をだませたメイドが、ニンテンドーDSを貰えることになっていたらしい。

それを知っていれば、あるいは知らなくとも空気を読んで、騙されてあげれば、ハルカが一位になれたのかもしれない。でもハルカの悔しそうな顔が存分に見れたのでとにかく満足だった。

 

二時間近く滞在したのでハルカハもうあがっていた。別のメイドに見送られて店を出る。


「行ってらっしゃいませ、ご主人様」


 その時たまたま、カーテンの向こうの休憩室がちらりと見えた。

そこには、僕のフルネームが書かれたオムライスを猛然とした勢いでかきこむハルカの姿があった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

これ全部ウソで完全なる思いつきなんでくれぐれも信じちゃダメです。

 

オムライスの発祥の地は日本、「オムライス 起源」でググると分かるけどこちらのお店だそうです。

http://www.hokkyokusei.jp/omuraisu-yurai/

 

あとタイトルは本文とまったく関係ないです。

昔思いついた罵倒語で、言ってみたくて仕方ないけど言う機会が無い

 

オムライスと言えばメイド、オムライスと言えば名前書き。

それと「オムライスのオムって何だ? オムレツのオムか?」という私の疑問と、

指原梨乃が「メイド喫茶に行ってオムライス頼んだけど恥ずかしくて自分の名前じゃなく秋元康の名前を書いてもらった」というエピソード
http://ameblo.jp/sashihara-rino/day17-20110520.html#main
が混じり合い、


豊か過ぎる想像力の羽が伸びて爆誕した奇譚ですね、楽しかったです(ええそりゃそうでしょうとも)

 

結局オムライスのオムはオムレツのオムだそうです。(上記サイト参照)

 

オムライスを頼む勇気はあるのに、

恥ずかしくて自分の名前をオーダーできない指原も大好きだし、

そもそも自分がアイドルなのにメイド喫茶に行くスピリットも大好きです。

 

最近の私の言ってみたいセリフランキング第一位は

「エッチだってしたのにふざけんなよ!」です。

ここぞという時にとっとく

 

 

 

ちなみに私シブサワはメイド喫茶で働いたことがあります。ド短期バイトで、3日間だけだったけどね。
年末年始に実家に帰らずわざわざメイド喫茶にやって来る、よりすぐりのキチガイを存分に堪能いたしましたとさ

 

オムライスは、メニューになかった。

小説の基礎練11:ポラロイドカメラの遺言(お題:ポラロイドカメラ)


小説の基礎練
です。詳細はリンク参照。 


目の前のパーティドレス姿の女の人に焦点を合わせ、シャッターを切る。全ての記憶を吹き飛ばすようなまばゆいフラッシュが焚かれ、失神しそうになりながらもなんとか気を強く保つ。皆が乗っているベルトコンベヤのように滑らかに進んでいく時の流れを降りて一瞬だけ過去に留まり、その光景を焼きつけようとする。実際その間は一瞬失神しているのかもしれない。正気に返った途端、慌ててベルトコンベヤに乗り直し、皆が進んだところまで小走りで追いかける……

 

ポラロイドカメラは必死なのでした。

脱力した死体からだらりと伸びた舌のように、ポラロイドカメラの身体からフィルムが出てきます。

女の人はキャッキャ言いながらそれを取り出してひらひら仰いで乾かし、

「わー出てきた出てきた」

と言いながら浮き上がってきた自分の姿にはしゃぎ、余白に花嫁へのメッセージを書き込むと、ステージ横のコルクボードにピンで留めに行くのでした。

ポラロイドカメラはへとへとになりながらそれをパーティ出席者分、こなさないといけないのでした。

 

ずっと、ポラロイドカメラはそういう暮らしをしてきました。

スタジオで撮影するプロカメラマンの露出調整のための試し撮り、あるいは、アイドルとファンの記念撮影。

 

カメラマンの撮影の時は、せいぜい一二枚しか撮らないから楽でしたが、あとに控えている立派な一眼レフに気後れするし、露出調整が終われば自分のフィルムはゴミ箱に直行するのは悲しいものでした。

アイドルの時は何十人、あるいは何百人にも及ぶファンの列にくらくらしながら拷問のような枚数をこなさないといけませんでしたが、可愛いアイドルの隣で幸せそうにはにかむファンの姿を見るのは悪くなかったし、そういう人たちがフィルムを捨てずに大事に持っていてくれるのは知っていたので、励みになりました。

 

でもどのみち、自分の撮った写真は数年後にはすっかり色が抜けてしまうことを、ポラロイドカメラは知っていました。

 

パーティが終わり、コルクボードに貼りつけられたフィルムを花嫁が一枚一枚剥がしていくのを見ながら、彼はむなしい気持ちに襲われていました。

本当に残したい写真はきちんとデジカメで撮っているはず。そして、焼き増ししたりして後日友達に届けるはず。

自分の写真は、あくまで今日のお楽しみのためだけ。

 

 

「いいよなあ、君は。僕も君みたいに、晴れの日の幸せな家族写真とか撮ってみたいよ」

片づけられたポラロイドカメラは馴染みのデジタル一眼レフにそう言いました。

「いいじゃないか、お前だって華やかなお姉さんとかアイドルとかレースクイーンを撮れるんだから。俺なんか七五三のガキとか、ぱっとしないリクルートスーツの大学生とか。まあたまに、成人式のお嬢さんも来るけどさ」

「でも君の撮った写真はいつまでも大切にされるし、人のつながりも生む。家族の結束を強めたり。最近気づいたんだけど、僕の写真がその場で出てきてありがたがられるのは、もう会いたくない人にその場で渡せるからなんだよ。アイドルはファンとはそれっきり、ってこと。刹那的なんだよ、僕のは」

「まあ、そう荒むなって……」

デジタル一眼レフはうまく慰めることができませんでした。

 

ポラロイドカメラの活躍の場が減っていることは知っており、それは自分たちのせいでもあるからです。

デジカメのプレビュー機能によって、ポラロイドカメラでの露出確認は不要になったし、アイドルの記念撮影だってファンが持参した小型デジカメや携帯のカメラ機能で済むのでした。

 

「僕には何も残らない、君たちみたいにデータも残らないし、アナログみたいにネガも無い……。僕は、今まで何をしてたかもう思い出せないんだよ。白いフラッシュで記憶が消されるみたいで……」

「だいぶ病んでるな。もう寝ろって」

そう言って身を横たえたデジタル一眼レフでしたが、心の中にはポラロイドカメラのある言葉が引っかかって、なかなか寝付けないのでした。

 

 

それから何年か経ち、デジタルカメラの台頭に伴ってますますポラロイドカメラの仕事は減っていきました。

そしてある時悲しいことが起こりました。ポラロイド社が倒産し、近々ポラロイドカメラ用のフィルムも生産が打ち止めになるというのです。

 

随分塞ぎ込んでいたポラロイドカメラですが、ある時デジタル一眼レフに向かって静かに言いました。

「僕は、自殺しようと思う」

デジタル一眼レフは驚きましたが、止めようとはしませんでした。

「でも、カメラが自殺って、どうやってするのさ? 飛び降りるか?」

「僕が乗ってるベルトコンベヤから降りて、二度と乗らなければ、僕はずっとそこにとどまっていると思う」

「それが死ってことか」

デジタル一眼レフは神妙な顔で頷くと、遠くを見やって言いました。

「なあお前昔言ってただろ、『僕には何も残らない、データも、ネガも』って」

「うん」

「でもそれ、いいことじゃないかとも思うんだ」

「どういうこと?」

「俺達デジカメは『どうせあとで減らせるから』って安易にぱしゃぱしゃ大量に写真を撮られる。お前、何も残らないって言うけど、俺たちだってデータを見たって何も思い出せないんだぞ? 一枚一枚の思い入れが薄いんだ。それに比べてお前は、一枚のフィルム代も高いし、ミスしたらムダになるから、大事に撮られる。そりゃ俺たちに比べてすぐさま出力しないといけないお前が撮影のたびに死ぬほど苦しむのは知ってるけど、でもその分フィルムは大事にされるんだぞ」

「……君も、覚えてないものなの?」

ポラロイドカメラが驚いて言うと、デジタル一眼レフは頷きました。

「なんだ、それじゃあ僕と一緒じゃないか」

「ハハハ」

デジタル一眼レフは乾いた様子で笑い飛ばすと、急に真面目な顔になって言いました。

「結局、何が残るかなんて大事じゃなくて、シャッターの瞬間の想いの強さこそ、人生なんじゃないか。お前の、その痛みが、お前だよ」

痛みが、自分。

ポラロイドカメラは確かに、シャッターの瞬間の身を切るような痛みと、一瞬天国が見えるような恍惚とした感覚だけは、鮮やかに覚えているのでした。

「でも……」

ポラロイドカメラは言いました。

「じゃあ、なんで人間は写真を撮るのかな。残るものが大事じゃないなら、写真要らなくない?」

「……それもそうだな」

デジタル一眼レフは考えたけれど、すぐにはまとまりそうにはありませんでした。

「俺は残るよ。それを考えるために」

「分かった。最後にお願いがあるんだ。僕の最期の瞬間を撮ってほしい」

「いいとも」

二つのカメラは相対しました。

「てことは、僕が最後に撮るのは君ってことになるね」

ポラロイドカメラははにかみ笑いをしました。

そして、黙ると、いつもは撮影者に決められているベルトコンベヤから降りる瞬間を自分で見極めるべく、神経を研ぎ澄ましました。

 

長年の付き合いであるデジタル一眼レフとの間に合図は不要でした。

ポラロイドカメラがシャッターを切ったのと全く同じ時刻にデジタル一眼レフもシャッターを切りました。

お互いのフラッシュのためにどちらのフィルムにも何も映らず、最後に出てきたポラロイドカメラのフィルムも真っ白でした。

でもだからこそ、いつまで経っても決して色褪せないのでした。





・・・・・・・・・・・・・・・
久しぶりの「小説の基礎練」でした。
何気に一年ぶり近くだった。

お題見て、
「ポラロイドカメラってそもそもなんだっけ」って思って、
いろいろ調べたら、
ポラロイドカメラの生みの親である
ポラロイド社が倒産していることがわかりました。
でもほかの会社がフィルムは作り始めているみたいだ。

いろいろ考えていたら
「時間とは」とか「死とは」とか「記憶とは」とか、
二時間におさまらぬ深淵なテーマに潜り込んでしまった。
まあ仄めかすことは出来たからよかったんじゃないかなーと思います。

三月に300枚長編を書き終えて以来なので、
小説を書くことが三カ月ぶりであった。
本当は六月末締め切りの文學界新人賞に出したかったのだけれど、
構想が出来そうで出来ず、
何かが最大限に近づいた時に掴めなかったので
むしろ遠ざかってしまった気がする……無念

構想を続けつつ、なまらないように基礎練もやっていきたいなあと思ってる

ポラロイドカメラはエモい
というかそもそもカメラがエモい

……とか言いつつも、私自身はカメラ大嫌いで、
レストランとかカフェで食べる前に写真撮る奴大嫌いだし、
結婚式とかディズニーランド行った時
マジで冗談じゃなく300枚くらい写真撮る女の子というのが
この世に存在しているもので、
うっかりそんな奴と行動をともにしてしまうと
殺意をおさえるの必死になってしまう。
そういう奴って、どこに行った時も「写真を撮った」という思い出しか
出来ないのでは?

同様に「思い出作り」という言葉も大嫌いである。
思い出を作りに何処かに行くというのはそもそもおかしくて、
何処かに行って(あるいは何処かに行かなくとも)思い出深い出来事があって
思い出がうまれるんじゃないの。順番ちがくない。

とにかくなんで、人間は写真を撮るんだろうね?

もう少し考えてみたいなあと思います。

「小説の基礎練」は、もちろん一定時間に小説を書き上げるトレーニングでもあるけど、
お題を突き付けられて普段考えもしないことを考えることが狙いでもある
ほっとくと私は同じことしか考えないからね

だから出来あがった話がちょっとくらいわけわからなくてもエモけりゃいいのだ(飛躍)


まー、できたら7月半ばまでに10本書きたいけど、
そうすると3日に1本になってキツいな。
少なくとも7月中には10本書いて、長編の構想も完成させたいなあと
思います。



ウィズラヴ!!!!!!!!!!!!!!!!

小説の基礎練10: デブフォン (お題:携帯電話)

JUGEMテーマ:自作小説


小説の基礎練です。詳細はリンク参照。


 

携帯電話はもはや携帯電話ではない。

電話だけでなくメールができる。すぐに電話がつながらない相手にも連絡ができる。

ウェブも見られる。地図も見られるから、初めての場所でも迷子にならないし、位置情報をつけて瞬時に居場所を知らせることもできる。

 

年老いた人は言う。

「携帯が無かった頃は、事前に待ち合わせ場所と時間をきっちり決めて、それでも会えないことがよくあったんだよ。同じ駅の隣の出口で待っていて、すれ違ったり。むろん遅刻なんてできなかった」

 

今はどうだろうか。むしろ約束なんかつけなくても「新宿なう」と呟けば、いや、位置情報つきのツイートをSNSに送るだけで、近くで暇な友達をひっかけることができる。

 

天気予報も分かる。位置情報がついていて、台風や地震が近づくとアラートが出る。

音楽も聴ける。好きな音楽を覚えこませれば、自動的におすすめの音楽のダウンロード先を紹介してくれる。

 

年老いた人は言う。

「昔はインターネットが無かったから、情報を集めるのが大変だったのよ。

テレビか、口コミ。自分でどうにかするしかなかった。

音楽なんて、テープを回していたんだよ。youtubeitunesも無かったし。

今は機械が勝手に教えてくれるんでしょ、おすすめの音楽を」

 

料理レシピも見られる。作った料理を記録でき、栄養が偏っていると、それを補うメニューを教えてくれる。

携帯を持ってランニングすれば、カロリーや走った距離を記録してくれる。

心拍数や体温を自動で測定し、毎日記録し、異常があればかかりつけの医者の携帯にメールがいく。

ディスプレイと目の距離が近すぎると、自動的に文字サイズが大きくなり、コンタクトレンズの処方が眼科へ送られる。

「昔は大変だったのよ。年に一度、健康診断というものがあってね。それは面倒だった。

今は医者の方から呼んでくれるのね」

 

クレジットカード、銀行のカード、薬局のポイントカード、保険証等をスキャンし、保存してくれる。更新期限やパスワードも管理する。

「昔はお財布の中が、カードだらけだったのよ」

 

人々はどんどん携帯を信用していく。

その場で連絡をとればいいから、待ち合わせ場所をいちいち決めない。

おすすめのバンドの名も、お気に入りのレシピも、携帯を見れば分かるからいちいち覚えない。

自分の健康状態も携帯が管理してくれるから、気を払わない。

 

携帯を落として、心神喪失状態になる者が出る。

これだけの個人情報が入っているのだから、悪用されたら致命的だ、という怖れより、携帯が手元に無い不安感のあまり、我を忘れてしまうのである。

小中学校での生徒の授業中の携帯使用、国会での議員の携帯いじりが問題となる。政府は両者を認める。

携帯を手に持っていない時の手の震えが国民病となる。

民間の携帯会社が、利き手と逆の腕に携帯を埋め込む技術を開発する。政府は追ってそれを許可する。

すると埋め込まれた携帯を他者に破損された場合の法的処置が問題となる。

携帯は身体か、否か。

「脳死は人の死か否か」以来で倫理学者が招集される。

最高裁において、携帯を破損することは傷害罪であると認定される。

 

全国民の携帯埋め込みが義務付けられる。

それに伴い、携帯の違法手術や闇取引が問題となる。違法滞在者への中古携帯の埋め込み、ハッキング、犯罪者の逃亡用の携帯書き換えなど。

携帯の機能がますます増える。あらゆる役所の手続きも、携帯から行える。ハンコ、婚姻届などは死語になる。携帯の持ち主が死亡した場合、心拍の停止から携帯から死亡届が自動で提出される。

 

携帯の機能拡張にともなう巨大化により、利き手の逆が重くなる。

利き手の逆側の肩コリが国民問題となる。死者も出る。

民間企業は、頬に携帯を埋め込む技術を開発する。ディスプレイは網膜に直接映し出される仕組み。頬のタッチパネルを触り操作する。政府、これを許可する。

 

人々のライフスタイルが大きく変わる。

病院では、カルテでなく携帯のバックアップをとる作業が行われる。万一携帯が破損した場合に備える。

義務教育の場においては、従来の暗記型ではなく、教科書の情報をいかにうまく携帯に流し込み、すぐ取り出して使えるかという技術を学ぶこととなる。教育者が、フォルダ型と、タグ型等の派閥に分かれる。

 

人間の記憶の携帯依存が進み、人の脳の退化が進む。頭蓋骨も小型になり、もはや小型テレビほどになった携帯を支えきれなくなる。首の骨を折って死ぬ者が続出する。

政府、全国民の顔に携帯を埋め込む方針を決定。もはや誰も、相手の顔など見ていなく、携帯ばかり見ているので、特に異議は起こらない。むしろ互いのディスプレイが見やすくなるので歓迎される。

 

待ち受け画面が、最大のファッション市場となる。

キリスト教の割礼は、新生児の携帯画面についている保護フィルムをはがす行為を指すこととなる。

生殖器によるセックスではなく、互いのディスプレイをタッチしあい、全てのデータを見尽くすことが、最大の性的興奮かつ愛情の印とみなされるようになる。

最高裁において、他人の携帯を破損することは殺人罪と同義という判決が下される。

 

 

 

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なんとか二時間でおさまりました。これで「小説の基礎練」ひとまず終了です! わーわー

約二ヶ月で10本……目標より四日のびちゃったけど、完成してよかったー

 

今回のはなかなか気に入っております オチが時間内に思いつかなかったのが心残りだなー……(これでも終わってないことは無いと思うけど)

オチ募集中!(!)

 

iphoneに変えてほぼ一年。

ウェブは速いしtwitterも速い。パソコンのメールも見れるし、mapを開けば現在地が表示された精密な地図が即座に示されるし。

こんな小型の機械で何でも出来るなんて、「マジ、未来、来た!」と思わないわけがない。

同時にこいつに頼ってどんどんアホになっていく危機感も否めない(思い出そうとする前にiphoneで調べちゃうから、早くボケそう!)

そんなアンビバレンスな感情を込めてみました。

 

数十分後にiphone5の発表会ですか? 私にしては珍しく、時事に乗った記事になったな笑

 

小説の基礎練は、一冊の本にまとめて文学フリマで無料配布する予定です!

私個人の感想ですが、「小説の基礎練」は、速く書く練習、プロットを立てる練習、そして筆馴らしに最適だと思います。

同業の方にもやってみてもらいたい、そして他の人が書いたものも読んでみたい……!

 

もし私も基礎練やってみる!(やってみた!)て人がいたら、教えてくださいね……!